私が学生の頃から、室内楽を聞くことは大変好きでした。
特に、弦楽四重奏曲なんて、素晴らしい演奏形態ですし、名曲もたくさん。
でも、私はコントラバス奏者。
どうがんばっても、弦楽四重奏の演奏体験をコントラバス奏者として持つことは不可能。
どうしても弾きたくて、チェロのパートをコントラバスでできないかと、いくつかの曲を自宅で試奏してみますが、すぐに挫折してしまいます。
「だって、チェロで弾いたほうがいいに決まってるもんなあ」
そんな気分になりまして、今では演奏できる弦楽器奏者に対して羨望のまなざし。
弦楽四重奏曲の王道といえば、なんといってもベートーヴェンの作品を無視するわけにはいきません。
彼が残した16曲の弦楽四重奏曲は、名曲中の名曲でして、
これが弾きたくてクァルテットを組んだ弦楽器奏者たちがどれだけいることか!
この曲に対して、語ろうものなら、このコラムでの文章量は膨大なものになるはず。
でも、ここでは1曲だけ焦点を絞ります。
1810年に作曲された弦楽四重奏曲第11番ヘ短調「セリオーソ」。
副題にある「セリオーソ」とは、生真面目とか、厳粛とか、深刻とか、いろんな意味がありますが、いずれにしてもニュアンスは似たような感じですね。
一度聞けば、「かっこいいベートーヴェン」みたいな感じを受けて、私も学生の頃に一度聞いただけで気に入ったぐらい。
演奏時間も20分を少し超えたくらい。時間的にも聞きやすい手頃さもいいですね。
そんな名曲であるセリオーソ、コントラバス奏者として演奏体験を持つチャンスをいただくこととなったのです。
先日、ある弦楽合奏団から演奏依頼を受けた私。
エキストラ出演として、その弦楽合奏団の演奏会に出演することになっていますが、
その演奏会のメインがセリオーソなのです。
「え、弦楽四重奏曲なのに?」
いやいや、この曲の弦楽合奏版があるのですよ。
その弦楽合奏版を書いたのがグスタフ・マーラー(1860-1911)。
コントラバス奏者が弦楽四重奏曲の演奏体験を持つことは、弦楽合奏版で可能なのでして、
私の気分は完全に有頂天!嬉しくて嬉しくて。
ところで、楽譜を見てびっくりしたのです。
マーラーが書いたコントラバスパート、原曲のチェロのパッセージを補強するという感じなので、演奏箇所が非常に少なく、演奏している時間よりも休んでいる時間の方が長いのです。
最小限の音数で最大限の演奏効果を狙ったのか、マーラーの書き方には異論はないのですが、この休みの長さに私は公演本番で果たして耐えられるのでしょうか?
コントラバスの演奏箇所につきまして、以下にまとめてみます。
・第1楽章:ちょこちょこ弾いては休み、弾いては休みの連続。暇ではないのですが、弾いている時間よりは休んでいる時間の方が長いことは間違いないです。
・第2楽章:冒頭部分のチェロのパッセージと全く同じ音を4小節、再現部に出てくるチェロのパッセージと同じ音を4小節の合計8小節をPizz奏法(つまり、指ではじく奏法)で演奏。
Pizz奏法を採用する斬新さは見事だなあと思いましたけど、仕事はこれだけ。それ以外は全部休んでいます。
・第3楽章:動きの多い部分での演奏はまあまあ多く、これは暇なことはないのですが、やや美しく歌われる中間部分での演奏箇所は9小節のみ。それがとっても不思議でして、チェロのやや高音の旋律パッセージのオクターブ下をなぞるというもの。楽譜を見れば、ヘ音記号ではなく、ハ音記号を使ってのテノール譜表。
美しい旋律を担当出来るのは嬉しいことですが、これ、ほんまにいいのかなあ?ひょっとしてマーラーのミスで、この部分も私は休みになるのではないか?果たして本番ではどうなるのか?
こればかりは練習で弾いてみないとわからないですね。
・第4楽章:楽章冒頭から31小節休んだ後に音符が8つ。その後、42小節休んで音符が10個。その後、20小節休んでそれからはまあまあ音は多くありますけど、やっぱり休んでいる時間はまあまああります。
これを書いている時はまだ練習に参加していませんので、実際にはどんな感じになるのかわかりませんけれども、
オーケストラで出番の少ない打楽器奏者や特殊楽器の奏者の心境に近いものがありますね。
逆に、この機会にその気分を味わって、このような名曲を味わう体験もいいかなあと思ってみたり。
いずれにしても、ベートーヴェンのクァルテットの名曲が味わえる、これはいい勉強の機会になりそうでして、
しっかりと勉強をして臨みたいものですね。
楽しみです。
2016.6.6