vol.10 左手のピアニスト~その1~

時々、右手が痛くなる時があります。

実はこれを書いている現在がその状況。

原因はわかっているのです。

ピアノで録音をしないといけない作業が先月からあったのですが、その際にちょっと無駄な力を入れている状態でピアノを弾いて、右手を痛めたということ。

おまけに、楽譜を書く作業でも右手に無駄な力が入ってしまい、余計に痛めているという始末。

まあ、すぐに治るものなので、それほど心配になることではありません。

幸か不幸か、この夏は本番の仕事が入らなかったので、右手を酷使するような演奏活動はありません。

 

 

ということで、自宅でピアノを弾く際、最近は左手だけで演奏できる曲を弾くことにしています。

まあ、大した痛みではないので、両手で弾くこともしてはいますけどね。

おっと、コントラバスを弾くには全く問題はありませんよ。

 

 

さて、私自身、左手ピアノの作品には以前から高い関心がありました。

そのきっかけとなったのが、あるピアニストのことだったのでした。

 

 

そのピアニストとは、フィンランド在住の国際的ピアニストである舘野泉さんでした。

舘野さんは2002年1月、フィンランドでのコンサートの最中、脳溢血で倒れるということがありました。

命には支障はなかったのですが、後遺症として右半身不随というものが残ってしまいました。

ということは、右手が不自由であるという状況。

キャリア40年以上という世界中で活躍をしていた舘野さんにとって、このことはまさに死刑宣告に等しい厳しく辛いものでした。

 

 

フランク・ブリッジ
フランク・ブリッジ

失意の日々を送っていた舘野さんに、再起への手掛かりがもたらされました。

舘野さんの息子さんでヴァイオリニストのヤンネ舘野さんから、ある左手ピアノの作品の楽譜を贈られました。

その曲、イギリスの作曲家フランク・ブリッジ(1879-1941)が作曲した3つのインプロヴィゼーションでした。

舘野さんが何気にこの楽譜を取り出して、ピアノに向かったのですが、その際に心躍るものを感じたのでした。

まさに、左手のピアニストとして演奏活動を復活する契機となったのでした。

私もこの作品の楽譜を所持しています。

不思議な響きが残る作品で、やはりタイトルにある即興の要素を感じさせる作品といえます。

 

 

舘野泉さんのことは、音楽教育としても有効な出来事でした。

NHK教育放送にも道徳番組として編集されたこともあり、時折非常勤講師を務めている高校の授業でも、このことを取り扱っています。

なんらかの障害が発生してしまい、それを克服するためには、困難が待ち受けているけれども、克服するためのチャレンジには大きな意義がありまして、

このことは音楽教育という観点よりも道徳教育という観点からも有用です。

 

 

では、左手ピアノの作品がなぜ存在するのでしょうか。

そのことは次回のコラムに書くことといたしましょう。

2013.7.24