先日、私が組んでいます室内楽ユニットのひとつ、Basso Cantabileの公演がありました。
その際、作曲家の名前は有名だけれども、
知られていない名曲を演奏するといったことを何曲か行いました。
その中でも、特に評判のよかった作品がありました。
その作品、私たちBasso Cantabileが練習をしている段階から、とても気に入った作品でした。
作品名は「デュエット ニ長調」というものでしたが、
作曲家はフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)でした。
ハイドン、この名前を聞いて、
どの作品を連想されるのでしょうか?
これ、案外返答に困ってしまうかもしれません。
同じ時代の作曲家、モーツァルトなら、
いくらでも思いつく作品が出てくるのでしょうが、
ハイドンとなると、
クラシック愛好家でなければ、あるいは、ハイドン愛好家でなければ、
なかなか思いつく作品が出てこないかもしれません。
そう、なんとなく、ハイドンはこの国では作曲家の知名度の割には、演奏があまり普及していないのかもしれません。
いやいや、そんなことはないよ、そんな声も聞こえてきそうですが、
やっぱり、モーツァルトには負けてしまうのでは?
でも、思い返してみると、私自身もこれまでの演奏体験で、モーツァルトの演奏はかなりの数ですが、ハイドンとなると一気に数が少なくなってしまいます。
いわゆるメモリアルイヤーとなると、その作曲家の演奏が急激に増える傾向はこれまでにもよくありましたね。
モーツァルトの生誕200年だった1991年、没後250年だった2006年、
ショパンの生誕200年だった2010年とか、
この時期は本当にいろんな演奏会がありましたし、
私自身も2006年と2010年はそのブームにあやかりまして、その作品による演奏をコントラバスソリストとして行いました。
ハイドンもそのチャンスはあったのですよ。
2009年が没後200年でした。
確かに、演奏頻度はその前年よりかは上がったとは思いましたけど、
ある作曲家のメモリアルイヤーと重なり、残念ながら陰に隠れていたともいえます。
その時のハイドンの敵(?)、メンデルスゾーンでした。
メンデルスゾーンが生誕200年、それと重なったのですから、これは敵わなかったですね。
ところで、先日私たちBasso Cantabileが取り上げたデュエット ニ長調ですが、
この作品名が原曲の名称ではありません。
本当ならバリトン二重奏曲 ト長調 Hob.XII:4 と表記しなければなりません。
この作品をかつてベルリンフィルで首席チェロ奏者を務めていたイエルク・バウマンによって、チェロとコントラバスの二重奏に編曲されました。
私たちはその楽譜を使用しての演奏だったのでした。
この編曲、調性もコントラバスに配慮してなのか変更をしていて、
しかも、楽章の順番も変更(原曲の第2楽章と第3楽章を入れ替える)するという凝り方。
でも、そもそもの疑問。
「バリトンって何?」
間違ってはいけないのは、通常ならバリトンといえば、
声楽の声域のことでして、
有名なベートーヴェンの第九の第4楽章に出てくるバリトンソロが思いつくのでしょうが、
そうではなく、バリトンという楽器があったのです。
バリトンは、17世紀~18世紀にかけて、ヨーロッパの一部の上流階級で演奏された弦楽器。
弦の数は表面が6本くらい。
奏法はチェロのように弓で音を鳴らすのですが、
裏側が凄いのです。
楽器の裏側に共鳴用の金属弦がいっぱいあって、
その数は楽器により様々ですが、10本以上はあるのかなあ?
その共鳴弦も左手の親指などではじいて演奏することも可能なのです。
こんな複雑な楽器、当然演奏は難しく、19世紀になってからは廃れていくのでした。
たまたま、ハイドンが仕えていたエステルハージ家で、この楽器の演奏が出来たエステルハージ公爵(1714-1790)のために、バリトンが含まれた編成の室内楽曲を大量に作曲したのでした。
その数が凄い。
なんでも170曲以上はあるのではとか。
近年の古楽復興の流れにより、廃れてしまったバリトンが復元されて、演奏される機会が出てくるようになりました。
私自身も2009年に浜松で、そして今年の1月に京都で、バリトンの演奏を聴くことが出来ました。
すごく貴重な体験だったので、その時の感触はそりゃよかったですよ。
でも、思ったことがあったのです。
「やっぱり、お客さんの数が...」
そうなのです、やっぱりハイドンは可哀想なのです。
なので、私の今後の演奏プランに、ハイドンを占める割合を少しは増やしていきたいなあと思っているのです。
それも、本当に知名度の低い作品を取り上げたいなあと。
だって、一度聞けばすぐに親しめる作品がとっても多いのですからね。
私のそんな挑戦は来年に続きます。
2015.11.28