vol.53 まだまだ制約がかかった音楽教育~1学期編~

2021年4月、私は別の学校で音楽の非常勤講師として勤務することとなりました。

今度の学校は中高一貫校ですが、規模が非常に小さく、

中学1年生から高校2年生までの5学年に設置されてある音楽の授業を全部一人でこなすこととなりました。

私の音楽教員生活の中で、これほどの科目数をこなすことは初の体験でした。

ただ、通常の授業を準備するのではなく、コロナ禍の状況がまだまだ続くことから、

授業を遂行していくには様々な制約がかかったままの状況でした。

 

 

・校歌の学習では、歌唱が出来ない

入学してきた中学1年生や高校から入学してきた高校1年生には、やはり校歌の学習が必要なのですが、

昨年同様、歌うことは出来ない状況にありました。

仕方がないのですが、まず校歌の録音を聞き、歌詞の内容を理解して、

やむを得ず歌詞を書き写すという課題を課しました。

今度勤務している学校の校歌、作詞者と作曲者が極めて有名な人物だったということもあり、

その方々に関するレクチャーもしたので、

日本の歌謡史に関する知識に触れることが出来ました。

 

 

滝 廉太郎
滝 廉太郎

・滝 廉太郎『花』

中学2・3年生の教科書に掲載されている曲に、

滝 廉太郎『花』があります。

中学3年生の授業で、この曲を取り扱いました。

でも、歌うことは出来ない。

ということで、まずは教科書を見ながら曲を聴くことに。

幸いなことに、録音ではなくDVDで歌詞がしっかりと挿入されているものがありましたので、

鑑賞ではそれを使用しました。

音だけでなく、映像が付くことによって、生徒たちの鑑賞態度は比較的に良くなるものです。

鑑賞後は作曲者のこと、曲のこと、作詞者のことなど、

知識的な内容をレジュメにして配布して学習。

授業内容はやや歴史的であったり国語的であったりしましたが、

これが他の教科の学習と関連することから、

歌曲を歌わない授業も、工夫次第では取り扱えるのではないかと思ったものです。

ちなみに、この授業後、

「どうして滝 廉太郎みたいな音楽家が生まれることになったのだろうか?」

という投げかけをして、明治時代における西洋音楽史の学習につなげることとしました。

 

 

・オンライン授業を実施

4月下旬から6月にかけて、緊急事態宣言が発令されていました。

私が勤務する学校では、生徒たちは自宅に待機して、オンライン授業を受ける体制となりました。

実はオンライン授業というものを私が体験するのは初めてのことでした。

昨年度は課題配信はしたものの、リアルタイムでのオンライン授業を音楽は実施しなかったのでした。

ITに苦手意識が強い私に、zoomでの授業で上手く立体的な授業をすることがなかなか出来なかったので、

ここは楽典の授業を中心に遂行していくこととしました。

授業は普通教室で実施して配信したので、黒板に五線が引いておらず、

またこちらで線を引いても、自宅にいる生徒たちはノートを取るに時間がかかったりと、

不便なことは解消されませんでしたが、

楽典の学習の進度をゆっくりと設定して行いましたので、不便な状況でも学習はこなせたのではないかと思っています。

ただ、精神衛生上、1ヶ月以上もオンライン授業をするというのは、なかなか厳しいものがあったことは事実。

ずっと「はやく、子どもたちと対面授業がしたい」と思っていました。

 

 

・対面授業再開

6月から部分的に対面授業を再開となりました。

実技が出来なかった鬱憤を晴らすために、昨年私が実施したクラッピングやボディ・パーカッションの曲をこなしました。

昨年度は一つの学年だけがこなしたメニューでしたが、

今回は5学年がこなしたメニューのため、

実技試験前になると学校中がクラッピングの音に溢れて、大変にぎやかな状況に。

他の教科の先生方にも「あれは何をしているのですか?」みたいな問い合わせが多数。

いろんな意味で評判がよいものでした。

 

 

『春の祭典』初演時の写真(1913年)
『春の祭典』初演時の写真(1913年)

・ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」

今年は20世紀ロシアの作曲家、

ストラヴィンスキーの没後50周年。

彼の代表作はなんといっても

バレエ音楽「春の祭典」。

でも、こんな難しい曲、音楽鑑賞に使うには勇気が要ります。

確かに、中学2・3年生の教科書にも掲載されていますから、

音楽教育として知っておくべき曲なのは確か。

そこで、今年だからこそチャレンジしてみました。

対象学年は難しい曲だからということで、高校2年生にしてみました。

レジュメを配布、プリントにはいろいろとデータを記入してもらったりの作業をしてもらったのですが、

運のいいことに、NHKのEテレで放送の「Classic TV」でストラヴィンスキーの春の祭典を取り上げた放送がありましたので、それを有効利用しました。

クラシック音楽ビギナー向けの番組ということもあり、大変わかりやすい解説と分析を示してくれましたので、

生徒たちは興味深く見ていたようでした。

さすがに、全曲鑑賞は無理ですが、抜粋でも学習意義はあると思われる曲。

折角なので、今年度は2学期や3学期にでも中学2年生や3年生、高校1年生にも取り扱うつもりです。

 

 

それにしても、昨年からのストックがあったことは幸いなのですが、

今年度は学校全体の音楽教育を考えないといけない立場から、

やはり教材研究に費やす時間と労力は予想を上回る膨大なものとなっています。

夏休みの間に、次に使う実技教材を作成しておかないと、確実に間に合わないことが予想されるのです。

どうやら、休暇中も勉強は必要です。

コロナのせいで大変な状況になったのですが、

コロナのせいでたくさん勉強することとなりました。

ということで、音楽教育に関する一連のコラム、次回は12月に2学期編をまとめるつもりです。

 

2021.7.5