今年の初め、室内オーケストラの演奏会に出演したのですが、
そこで演奏した曲に異常なまでに興味を抱いていたのでした。
今回のコラムは、そのことに関する雑記です。
演奏を依頼されて、曲目を知らされたら、
まずはその曲を勉強するのですが、
この演奏会での曲目では1曲だけ、私の知らない作品があったのです。
それが、ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 WoO.5 なのでした。
曲目を知った当時の私は、
「おっと、こんな曲もあったのか」と思ったもの。
ここ数年、ベートーヴェンの作品でも知名度の低い珍しいものを多く弾く機会がありましたから、
今回もこの機会を楽しみにしていたのでした。
ところが、事前の学習で一つ困ったことがありました。
総譜を購入しようとしたところ、どこを探しても楽譜が出版されていないのです。
ベートーヴェンくらい超有名な作曲家の作品なんて、入手が出来ないなんて考えられないと思っていたのです。
「なんで、見つからないんだろう?」
答えは、販売されていないということ。
実は、ピアノ伴奏の譜面は販売されているのですが、
オーケストラのスコアはパート譜とともに、レンタル譜なのでした。
そう、演奏するには、レンタル譜を取り扱っている出版社からレンタルしないといけないのです。
ですから、演奏が終了したら返却。
う~ん、残念。
なんで、こうなるのでしょうか。
その理由は、この曲の作曲された当時の状況から説明が必要となります。
この曲、作曲されたのは1790~1792年頃、ベートーヴェンの20歳前半の頃の作品。
完成された作品だったはずなのですが、どういうわけだか、
第1楽章の途中259小節までしか楽譜が残っていないのです。
当然、第2楽章も第3楽章もあったでしょうが、現在では消失という残念な状況。
この残念な状況をなんとかしたいと、後世の音楽家の数名の方が第1楽章を補筆して完成させています。
私が演奏に接しました今回の公演では、
ドイツの音楽学者ヴィルフリード・フィッシャー(Wilfried Fishcer)が補筆して完成された版が使われました。
カデンツァは日本人ヴァイオリニストの浦川宜也氏によるもの。
この版は1971年にベーレンライター社から出版されたので、
レンタルはここの出版社関連で可能ということです。
なので、レンタルの理由は、補筆したフィッシャー氏の著作権があるからと私は推測しています。
演奏して感じたのですが、若者ベートーヴェンのしかもウィーン時代の前の作品、
堂々としていて若々しいものも感じられて、凄くいい曲だと感じました。
いい曲だから、もっと演奏されたらいいのになあと思うのですが、
楽譜が販売されていないというのが、普及の妨げになっているのでしょうか。
ひょっとしたら、今後私はこの曲の演奏体験を持つことも、あるいは聴衆として演奏を聴く機会もないかもしれないのですね。
まあ、面倒くさがらずに、ちゃんと楽譜をレンタルしたらいいのでしょうかね。
でも、やっぱり普通に販売されてほしいなあ。
せめて、2年後の2020年には、この作品が広く演奏されてほしいのです。
だって、2020年はベートーヴェン生誕250年なのですよ!
2018.1.23