自分が専門にしていることに関する本を読むことは、実によくあること。
私だって、音楽に関する本はよく読みました。
ただ、特定の楽器に関する書物となると、楽器の知名度によって出版されている書物の数は違ってきます。
こと、コントラバスとなると、なかなか見つからないことも。
そのコントラバスに関する本、私も少しは所有しています。
専門的な内容の本、業界に関係する人には特におもしろい本、などなど。
ただ、それについてここで語るのは、あまり一般的ではないような気もします。
そこで、この楽器を取り扱った文学作品について、ここで紹介したいと思います。
世界的ベストセラーとなった『香水』の作者、
パトリック・ジュースキント(Patrick Suskind 1949- )が1981年に
『コントラバス(Der Kontrabass)』。
作者がドイツ人ですから、原書は当然ドイツ語ですが、
同学社から日本語訳も出版されています(ここでは、作者の名前はズュースキント)。
もともとはラジオドラマの脚本用に書かれたものでして、登場人物はコントラバス弾きの男性一人だけ。
その彼が一人で延々と語ります。
その内容は音楽的なことを建設的に語るかと思えば、やがては愚痴になり、卑屈な精神となり、夢・愛・希望・挫折が入り乱れた精神錯乱状態に。
もしも、身近にこんな男性がいたら、あまり好かれないだろうなあと思ってしまうくらいの、正直とっつきにくい人柄に見えてしまいます。
この本を初めて読んだとき、やはり自分がコントラバスを弾いているからか、妙に納得していたものです。
そう、その頃、私はこの登場人物に自分を当てはめていたのかもしれませんね。
ちなみに、最初に読んだのが19歳の時(1989年)でした。
え、若かったくせに、なんか老けた学生やったんやなあ、自分!
登場人物のコントラバス奏者は35歳独身という設定。
務める歌劇場で出演しているソプラノ歌手に恋をして、その想いをどうするのかちんたらちんたらしているところなんか、
読み手には「しょうもない男やなあ」と思われるかも。
でも、なんとなく、私には彼の優柔不断な思いを語っているのに共感してしまっていることも。
あ、誤解のないように、世の中のコントラバス奏者はこんな人ばかりではありません。
勿論、今の私も、こんな人ではありませんよ。
なんだかんだ云って、私はこの本をとにかく気に入ったのです。
100ページをちょっと超すくらいの短い書物ですから、読む時間は短いもの。
なので、ドイツ語を勉強していた学生の頃は、原書も入手して読みました。
勿論、辞書を片手に、たどたどしく読むというか、訳をするということ。
でも、内容が音楽のことですから、原書で読むことに抵抗感は少々薄かったかなあ。
今ではまず原書で読むなんて出来ませんけどね。
さて、この本、ラジオドラマの脚本として書かれたというのですから、
一人芝居として上演されたこともあります。
日本での上演記録は少ないのですが、私が観たのは2004年6月に東京のHAKUJUホールでのもの。
俳優さん、本当にコントラバスを舞台で弾いていましたね。
相当訓練したのでしょう。
やはり、こういう作品、読むことと観ることとあわせることにより、味わいが拡がります。
そこで、ふとしたことを思い立ちました。
「本物のコントラバス奏者が演じたらどうなるのだろうか?」
どうやら、海外ではそれをした人が多数いらっしゃるようです。
日本では果たしていらっしゃるのでしょうか?
え、私がやればって?
無理ですよ。あんなにたくさんの台詞、覚えられませんよ。
まず演技すらできないしね。
まあ、ラジオ放送ならできるかなあ?
今回のコラムで紹介しました本、
コントラバス弾きなら必読、
音楽を愛する人も、まるで縁のない人にも、お薦めの本です。
ちなみに、この書物のレビューはネットですぐに見つかりますので、
詳しくはそこを見て、それからお読みくださってもいいかなあ?
2015.7.10