私の音楽活動におきまして、語りが付いた音楽を演奏するという体験は、
これまでにも多くありました。
2003年から2009年まで合計14回の公演記録を持っていますのが、
サン=サーンス/組曲「動物の謝肉祭」でした。
元々、この曲にナレーションは付いていないのですが、
私がこの曲を演奏する際、全ての公演で語りが付いていました。
そのどれもが楽しく思い出に残り、またお客さんにも大変に喜んでいただいたものばかりでした。
上記に挙げました曲の他にも、私はナレーション付きの音楽を取り上げてきました。
次に紹介いたします曲、知名度は全くないのですが、
本当におもしろい音楽です。
アラン・リドー(Alan Ridout 1934-1996)が作曲しました
「小さな悲しい音~ナレーションとコントラバスのためのメロドラマ~」
(Little Sad Sound, a melodrama for narrator and double bass (1974))
であります。
ここで、作曲者のアラン・リドーについて説明が必要となります。
リドーは20世紀イギリスの作曲家であり、教育者でもありました。
彼の生きた時代が20世紀のど真ん中でしたから、
作風が前衛音楽なのかと思われますが、
彼自身が音楽教育者として大きな功績を残したことからか、
作風として見れば難解なものの方が少ないかもしれません。
彼が書いた作品は合唱曲や管弦楽曲の他にも
ピアノやオルガンの曲に室内楽作品にと、
多岐に渡っています。
リドーが「小さな悲しい音」を作曲したのが1974年でした。
ナレーション原稿はデヴィッド・デルブ(David Delve)が作成しました。
そもそも、どんなストーリーなのか?
以下にその要約をまとめました。
あるところに「音楽の国」というものがあった。
そこにはいろんな音が住んでいるが、そのうちに”小さな音”が、ある日迷子になってしまった。
ほんの小さな音なのに、その音がいないために、音楽の国ではけんかばかり。
合奏をしてもうまく仕上がらないのである。
”高い音”はイライラしていくし、”真ん中の音”は怒り出してしまう。
ひとりぼっちの低い音(ベース)が静かに言う。”小さな音をなくしちゃったんだ。”
そこで、みんなで”小さな音”を探し出すことに。
そして、迷子になって悲しんでいる”小さな音”を見つける。
「音楽の国」に戻ると音楽はとてもうまくいく。
2人のベースが再会出来たからである。
2人のベースが一緒になって、出来た楽器が「ダブル・ベース」ということである。
ダブル・ベースを英語にすれば”Double Bass”
これ、つまりはコントラバスの意味です。
そう、話のオチには、きちんとコントラバスが出来上がる、そんなおもしろさがあります。
このように、上手く児童向けの絵本にすれば、ファンタスティックで楽しい作品になるようなものです。
残念ながら、絵本にはなっていませんけれども。
余談ですが、絵にするのは難しいでしょうねえ。
だって、登場人物が音ですよ。
どうやって絵にするのでしょうか?
さて、本来ならば、この曲を演奏する場合は、
コントラバス奏者とナレーションの2名が必要となります。
ただ、楽譜にはコントラバス奏者自身が語ってもいいように書かれてあります。
(or speaking double bass player)
そこで、私はコントラバスとナレーションの一人二役でこの曲を取り上げてきました。
原作は英語によるのですが、私なりに日本語訳を勝手に作成しました。
ただ、初めて取り組んだ2004年の際は、正直お客様は喜んでいただけるのか、とっても不安でした。
それに、自宅で練習するにも、語りの練習もしないといけないのですから、
コントラバスの音だけでなく、私の声も家の外に丸聞こえ。
近所の人に会うのが恥ずかしくって。
ところが、いざ本番を迎えると、大好評!
「これは使える」と思った私はすっかりと上機嫌。
それ以後、この曲の演奏依頼もあったことから、
2004年から2011年までに通算15回の公演記録を持ちました。
ここ3年ほどは取り上げていませんが、今年が作品が作られてから40年。
またやらないといけないなあと思っていますが、
今度は魅力的な語りが出来る方とコラボレーションをしてみたいなあ。
2014.7.5