vol.23 モーツァルトが描いた低音の世界~その3~

『魔笛』初演時、パパゲーノを演じたシカネーダー
『魔笛』初演時、パパゲーノを演じたシカネーダー

<3>~ベートーヴェンと魔笛 パパゲーノのアリア~
 

ここからしばらくはモーツァルトのオペラとしては欠かすことの出来ないジングシュピール「魔笛」k.620を取り上げます。

「魔笛」の人気は凄まじいものがあります。

勿論、モーツァルトが残したオペラの中では最高傑作といってもいいほどの作品ですし、

なんといっても、劇中に流れる音楽のどれもが耳触りのいい魅力的で記憶に残りやすい音楽だということでもありますし、

オペラ史上に名を残す傑作としての地位を確立した作品でもあります。

モーツァルトの死後、いろんな作曲家が魔笛の主題を用いた楽曲を書き残しているのですから、

それくらい魅力あふれる音楽が魔笛には詰まっているといえそうです。

このオペラの台本を書いたのがエマヌエル・シカネーダー(Emanuel Schikaneder 1751-1812)という人物です。

この人が初演の際、パパゲーノ役を演じたのでした。

このパパゲーノが歌う曲が、このコラムでは重要になってきます。

 

 

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

さて、パパゲーノが歌うアリアを使用した曲で思い浮かぶのがベートーヴェンの作品です。

彼はピアノとチェロのための変奏曲を3曲作曲していますが、

そのうちの2曲は魔笛の中にあるパパゲーノが歌うアリアやパミーナとのデュエットから引用しているのです。

ここでは第2幕第23場で、パパゲーノは欲しいものを列挙する陽気なアリアで、

「娘っ子か可愛い女房が一人」の主題による12の変奏曲ヘ長調Op.66のことを記述することにします。

原曲はグロッケンシュピールが聞こえてくるかわいい要素があるのですが、

これがベートーヴェンの手にかかるとその趣は少なくなります。

どちらかといえば、ピアノの比重が高く、チェロは伴奏にまわることが多い曲ですが、

それでもパパゲーノがバリトンの声域であることから、

チェロにとっては響きやすいフレーズが多いのです。
コントラバスでこの曲を弾くと、やや重々しくなることは否定できませんが、

むしろコントラバスの方が、パパゲーノの声域をよりシンプルに再現することが出来る強みもあります。

コントラバスらしい伴奏型と、バリトンの響きである旋律が味わえるのではないでしょうか。

私もこの作品はこれまでよく取り上げてきました。
なんとなくですが、パパゲーノのキャラクターに近い音が出せるような気がしているのでしょうか。

 

次回のコラムでは、パパゲーノとパミーナが歌うデュエットに纏わる曲について記述します。

 

2014.4.29