<2>~ドン・ジョヴァンニのセレナーデ~
モーツァルトのオペラは傑作ぞろいですが、
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」k.527もそのひとつです。
ここでは、その作品から単独でも演奏されることがある通称
「ドン・ジョヴァンニのセレナーデ」について記述してみます。
この曲は第2幕の第3場で、ジョヴァンニはエルヴィラの侍女を口説くために、窓辺で愛の歌を歌う曲。
正確には第16曲カンツオネッタ「窓辺においで」というべきなのでしょうか。
バリトンのアリアとしてよく歌われるこの曲はオーケストラの編成が極めてシンプル。
弦楽合奏が終始ピッチカート奏法で演奏、そしてマンドリンが効果的に使われます。
ちなみに、このオペラでマンドリンが使われるのはこの曲だけです。
そのため、オペラ公演の際、マンドリン奏者はかなりの待ち時間を過ごさないといけないのです。
さて、この曲がコントラバス奏者とどのような関係があるのかがここでのポイントといえます。
20世紀フランスの作曲家ジャン・フランセ(Jean Françaix 1912-1997)がこの曲を元にして、
独奏コントラバスと木管アンサンブル(フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット、コントラファゴット、ホルン2の10名編成)のために書いた曲を残しています。
それがモーツァルト・ニュールック~『ドン・ジョヴァンニ』のセレナーデによる小幻想曲なのです。
この曲のコントラバスは原曲のバリトンのパッセージに装飾を加えて、
コントラバスの技法が至るところに散りばめられています。
高音楽器であるマンドリンのパッセージまで演奏するということもあり、
曲そのものが大変ユニークなものとなっています。
また、伴奏がかなり凝ったものでして、
時々ビゼー/カルメンやヨハン・シュトラウスⅡ世/美しく青きドナウの旋律も登場するというものです。
このあたりにフランセの遊び心が見られるのでしょうか。
演奏時間にしてたったの2分半なのですが、
短い時間に凝縮された音楽の密度はおもしろいものがあることがわかるのでないでしょうか。
2006年4月9日のリサイタルで、ピアノ伴奏により演奏いたしましたが、
コミカルな音楽とロマンスあふれる音楽の同居は聞く人々を楽しませてくれました。
その後、指揮者として関わっています、とあるアンサンブルと共演するために、
2008年、2009年と2回取り上げました。
この時は指揮者とソリストを兼任する、
いわゆる「弾き振り」というものを務めました。
これは非常にいい経験となりましたし、
弾き振りの醍醐味も味わえて、いい収穫でした。
また、フランセ生誕100年に当たる2012年にもピアノ伴奏版にて再び演奏しています。
という具合に、この曲は私にとっては、貴重なモーツァルト体験となるのです。
さて、モーツァルトをコントラバスソリストとして体験するには、
これだけではまだまだ不足なのです。
次回のコラムでは、モーツァルトを題材に別の作曲家が書いた作品
(それはコントラバスのために書かれたものではありませんが)にスポットを当てたいと思います。
2014.4.28